買収防衛策の存在

本来、潜在的な企業買収の可能性は、オーナー取締役やその他取締役に、企業価値向上や株価上昇を促すものであり、彼らの怠惰な経営を抑止する牽制機能を有しています。

このように、潜在的な買収者の存在が少数株主の利益となり得るにもかかわらず、GMOインターネットは買収防衛策を導入しているだけでなく、同社の採用する買収防衛策は、導入に際しても発動に際しても、株主総会の決議を要しないものとなっています。

これは、実態的には株主の意思が反映される余地がない仕組みとなっていることを意味し、2005年5月27日に経済産業省及び法務省より公表された「企業価値・株主共同利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」や、2015年6月1日に株式会社東京証券取引所が発表した「コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」のいずれの指針にも反することは明らかです。

また、取締役会から独立して判断を行う特別委員についても、4名中2名(木下氏、小倉氏)は前監査役、4名中1名(小倉氏)は現取締役監査等委員、4名中1名(増田氏)は現社外取締役監査等委員で構成されており、その独立性や実効性についても疑義を持たざるを得ません。

熊谷氏は、過去のインタビューにおいて、同社がオリエント信販株式会社に係る過払い金請求において債務超過目前となった2007年当時、外資系ファンドによる500億円での買収提案を含む複数の買収提案があったことを認めています。このインタビューが記載された記事によると、熊谷氏は独断でこれらの買収提案を断ったとされており、これは筆頭株主(2006年12月31日時点において議決権の47.70%を保有)且つ代表取締役会長兼社長という同氏の立場に照らしても明らかな越権行為です。

また、同記事によると、熊谷氏は自身の「仲間への約束」、「夢」及び「志」を理由にこれらの提案を断ったとありますが、結果としてGMOインターネットは同氏が言う外資系ファンドから提示された買収金額である500億円を大きく割り込む時価総額でその後数年間推移しており、少数株主は著しい不利益を被ったと考えられます。

このような現状を踏まえると、GMOインターネットは、その後も同社に対して魅力的な買収提案があったのに、熊谷氏の独断、又は、それに近い形での社内決裁を経て買収提案を断った可能性があります。これは少数株主にとって看過することができない不利益であると考えます。

出所:ブルームバーグ  注:2018年1月18日時点データ。

出所:ブルームバーグ  注:2018年1月18日時点データ。

脆弱なガバナンス体制

オアシスは、現状のGMOインターネットにおいては、前述の買収防衛策の存在も手伝い、熊谷氏を含めた取締役及び経営陣に対して十分な牽制機能が働いておらず、これが同社の長期的な株価の低迷を招いている一因であると考えております。

実際にGMOインターネットの時価総額は、上場子会社8社(GMOペイメントゲートウェイ株式会社、GMOフィナンシャルホールディングス株式会社、GMOクラウド株式会社、GMOペパボ株式会社、GMOメディア株式会社、GMOリサーチ株式会社、GMOテック株式会社及びGMOアドパートナーズ株式会社)のGMOインターネット保有分の時価総額の合計額を下回るという状況が継続しています。

これは市場が、上場子会社を除くGMOインターネットの事業価値をマイナスの価値と評価していることを意味しており、GMOインターネットの株主としては現状を甘受することができません。

本来このような状況が長期間に亘って継続する場合には、取締役及び経営陣はその経営責任を問われるべきです。

出所:会社開示書類、ブルームバーグ  注:2018年1月18日終値を基に算出しております。

出所:会社開示書類、ブルームバーグ  注:2018年1月18日終値を基に算出しております。

同社の株価は、近時においては、仮想通貨マイニング事業への参入に対する期待から大幅に上昇しています。しかしながら、業績を見てみると、2017年12月期の第3四半期終了時点において、年初会社計画対比で営業利益の進捗率が63.1%、経常利益の進捗率が63.6%、純利益の進捗率が47.3%と、市場の期待を大きく裏切る結果でしかありません。

そうであるにもかかわらず、GMOインターネットのグループ広報・IR部によると(2017年10月時点)、熊谷氏は株主との面会には応じていないとのことであり、同氏が代表取締役として株主への説明責任を果たしているとは到底言えません。

このような状況を受け、2017年5月10日に開催された定時株主総会においては、熊谷氏の取締役への再任議案について、少数株主による反対票は賛成票を上回った模様です。

この投票結果が示唆するのは、少数株主は、熊谷氏の処遇も例外としない、より厳格なガバナンス体制への移行を求めているということであるとオアシスは理解しています。

出所:GMOインターネット開示資料を基にオアシスが算出  注:当該分析は、熊谷氏が自身の行使可能な議決権については取締役候補者全員の再選に対する賛成票に投じたと仮定し、少数株主のみの投票結果と推定される投票結果を算出しております。

出所:GMOインターネット開示資料を基にオアシスが算出  注:当該分析は、熊谷氏が自身の行使可能な議決権については取締役候補者全員の再選に対する賛成票に投じたと仮定し、少数株主のみの投票結果と推定される投票結果を算出しております。

なお、現状のガバナンス体制に関して申し上げますと、少数株主がほぼ唯一関与することができる機関決定である株主総会における取締役の選任決議について、熊谷氏がGMOインターネットの議決権の40.68%を保有していることから、同氏は実質的に支配的な影響力を及ぼすことができる状況です。

また、本来であれば、取締役会が実効的に機能するためには、意思決定機能のみならず監督機能を果たすことが重要であり、特に、実質的に熊谷氏に権限が集中しているGMOインターネットのような会社においては、経営の執行と監督を適切に分離することによる熊谷氏に対する十分な監督機能の担保が重要となります。そうであるにもかかわらず、GMOインターネットは、取締役19名中3名しか社外取締役がいない体制であり、かつ、取締役会議長を取締役社長である熊谷氏自身が務めており、経営の執行と監督が適切に分離され、熊谷氏への十分な監督機能が担保できているとは到底言えない状況です。

さらに、役員報酬における業績連動報酬部分についても、同社は「毎年、各取締役の定量的、定性的な目標設定と当該目標に対する達成度の評価を多面的に行っている」としているものの、実際にどのような目標設定を行っているのか、また、どのように達成度についての評価を行っているのかについては開示しておらず、現状のガバナンス体制を踏まえると、これらが少数株主の利益と一致する形で適切に運用されているかについては疑義が残ります。

オアシスは、今回の株主提案を通じて上述の問題点を解消し、GMOインターネットの持続的な成長の実現と、それに伴う企業価値の向上を志向しております。